新型コロナウイルスが猛威を振るっています。全世界で感染者がものすごい勢いで増加している状況が連日報道されているためか,これまでに経験したことがないくらい,公共の場では咳やくしゃみのエチケットが求められるようになったと感じられます。
このように,コロナウイルスの感染のおそれが高まっていることを背景に,職場でも,咳やくしゃみをしたことを過度にとがめられたりする等のトラブルが発生し,これらを“コロナハラスメント”,“コロハラ”と称して,新手のハラスメントと位置づけるような記事がインターネット上に散見されるようになりました。
本稿では,このようなコロハラが,パワハラとどのような関係にあるのか,法的な観点から考察してみたいと思います。
コロハラとパワハラの関係
コロハラはごく最近できた造語であり,明確な定義はありませんが,咳やくしゃみをしたり,感染者と一定の関係がある人を,新型コロナウイルスと関連づけて,過度に注意したり,排除したりする行為といえば,概ね当たっているのではないかと思います。 他方,パワハラとは,職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものとされています。
そのため,上記のようなコロハラに当たる行為が,「職場において」,「優越的な関係を背景」として,「業務上必要かつ相当な範囲を超えて」行われた場合には,コロハラがパワハラと評価されることになるでしょう。
どのようなコロハラがパワハラに当たるか
パワハラには6つの類型(タイプ)があるとされていますが,コロハラに当たる行為と重なる可能性があるものとしては,①脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃),②隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し),③私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)のいずれかになるのではないかと思われます。
これら①~③の類型は,業務上許容される注意や叱責との線引きが問題となることが多く,一見これらに該当しそうであっても,業務の適正な範囲を超えて行われているかを検討する必要があります。感染予防の措置として行われた行為が,業務上の目的を大きく逸脱していたり,業務を遂行するための手段として不適当であったり,当該行為の回数,行為者の数,態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超えていたりすると,業務の適正な範囲を超えていると判断され,パワハラに当たるということになるでしょう。
以上を踏まえ,コロハラがパワハラに当たる場合の具体例としては,次のようなものが考えられます。 ①脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)に該当する場合
①脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)に該当する場合
・・・他の大勢の社員の前で,「コロナに感染しているんだから咳をするならマスクをしろ」「コロナ野郎は会社に要らない」等の暴言を浴びせる ②隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
②隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
・・・コロナウイルスに感染しているという根拠がないにもかかわらず,別室に隔離したり,職場全体を巻き込んで過度に避けたりする ③私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
③私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
・・・コロナウイルスの感染予防のための調査と称して,プライべートに属する行動履歴の申告を強制する
これらはパワハラの6つの類型に当てはまる一例であり,類型に当てはまらないパワハラもあり得ることには注意が必要です。例えば,コロナウイルスに感染していないことの証明書を取得することを強制されたという事例もあるそうですが,これは6つの類型に当てはまらないと思われるものの,程度によってはパワハラに当たる可能性があるでしょう。
まとめ
上記のとおり,コロハラはパワハラに当たる可能性もありますが,他方で,コロナウイルスの感染拡大を防止することは企業にとって極めて重要な課題であり,業務上の必要性の程度は高く評価されるものと思われます。とはいえ,感染予防の活動も無制限にOKということはなく,社員の人格を無視するような方法はパワハラになってしまいます。今一度,パワハラの該当性を意識して,効果的な感染予防措置をとれるよう心がけたいところです。