いわゆる労働施策総合推進法の改正により,企業にパワハラ防止のための雇用管理上の措置をとることが義務づけられましたが,その具体的内容については,パワーハラスメントの内容とともに,令和2年1月に告示された厚生労働省の指針に示されています。同法の施行は令和2年の6月1日に迫っているため(中小企業については令和4年3月末までは努力義務),対応は喫緊の課題といえます。そこで,本稿では,この指針について解説します。
事業主の雇用管理上の措置義務の概要
指針は,措置義務として,9つの事項を挙げており,これらは,①方針の明確化,②相談体制,③事後の対応,④①~③と併せて講ずべき措置の4つに分類されています。また,各事項について,措置が講じられている具体例も挙げられています。各企業の事業の内容によって適切に運用できるよう調整する必要はありますが,指針に示されている具体例と同程度の措置が講じられていれば,措置義務違反と判断される心配はほとんどないといってよいでしょう。 指針によって示された措置義務の内容と具体例の概要は次のとおりです。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
ⅰ)パワーハラスメントの内容及びパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し,労働者に周知・啓発すること
〈具体例〉
- 就業規則等にパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を規定し,当該規定と併せて,パワーハラスメントの内容,発生の原因や背景を労働者に周知・啓発する
- パワーハラスメントを行ってはならない旨の方針,パワーハラスメントの内容,発生の原因や背景を,社内報等の広報・啓発のための資料等に記載して配布等したり,研修,講習等を実施したりする
ⅱ)パワーハラスメントを行った者については,厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等規定し,労働者に周知・啓発すること
〈具体例〉
- 就業規則等において,パワーハラスメントを行った者に対する懲戒規定を定め,その内容を周知・啓発する
- パワーハラスメントを行った者は,現行の就業規則等に定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し,これを労働者に周知・啓発する
②相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備
ⅰ)相談窓口をあらかじめ定め,労働者に周知すること
〈具体例〉
- 相談に対応する担当者を予め定める
- 相談に対応するための制度を設ける
- 外部の機関に相談への対応を委託する
ⅱ)相談窓口の担当者が,相談に対し,パワーハラスメントに該当するかどうかが微妙な場合も含めて,適切に対応できるようにすること
〈具体例〉
- 相談を受けた場合,その内容や状況に応じて,相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとする
- 相談を受けた場合,予め作成した留意点等を記載したマニュアルに基づき対応する
- 相談窓口の担当者に対し,相談を受けた場合の対応についての研修を行う
③パワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
ⅰ)事実関係を迅速かつ正確に確認すること
〈具体例〉
- 相談窓口の担当者,人事部門又は専門の委員会等が,相談者及び行為者の双方から事実関係を確認する
- 相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり,事実の確認が十分にできないと認められる場合には,第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずる
- 事実関係の確認が困難な場合等は,専門の調停の申請を行うか,中立な第三者機関に紛争処理を委ねる
ⅱ)パワーハラスメントの行為者に対する措置を適正に行うこと
〈具体例〉
- 事案の内容や状況に応じ,被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助,被害者と行為者を引き離すための配置転換,行為者の謝罪,被害者の労働条件上の不利益の回復,被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずる
- 専門の調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずる
ⅲ)改めてパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること
〈具体例〉
- 改めて,パワーハラスメントを行ってはならない旨の方針,パワーハラスメントの内容,発生の原因や背景を,社内報等の広報・啓発のための資料等に記載して配布等したり,研修,講習等を実施したりする
④ ①から③までの措置と併せて講ずべき措置
ⅰ)相談への対応又は事後の対応に当たっては,相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに,その旨を労働者に対して周知すること
〈具体例〉
- プライバシーの保護のために必要な事項を予めマニュアルに定め,相談窓口の担当者が相談を受けた際には,当該マニュアルに基づき対応するものとする
- プライバシーの保護のために,相談窓口の担当者に必要な研修を行う
- 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを,社内報等の広報・啓発のための資料等に掲載し,配布等する
ⅱ)パワーハラスメントの相談等を理由として,解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め,労働者に周知・啓発すること
〈具体例〉
- 就業規則等において,パワーハラスメントの相談等を理由として,労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を,社内報等の広報・啓発のための資料等に記載して配布等したり,研修,講習等を実施したりする
セクハラ・マタハラ防止の措置義務を応用する
男女雇用機会均等法や育児・介護休業法により,セクハラやマタハラの防止については,既に雇用管理上の措置義務が企業に義務づけられています。これらの措置義務に関する取り組みを実行された企業の方は,上記のパワハラ防止のための措置義務のうち多くの部分が,セクハラやマタハラの防止のための措置義務と重なることにお気づきになるのではないかと思います。
そこで,指針に記載されているパワーハラスメントの内容を参照しつつ,セクハラやマタハラの防止のための措置義務をうまく工夫して,パワハラの防止の措置義務に応用できないかを検討すると,効率的に整備を進められるものと思われます。
まとめ
改正労働施策総合推進法上のパワハラ防止のための措置義務に関する指針の概要は上記のとおりですが,本稿は,指針の文言で冗長とも思われる部分を思い切って削って見やすくしたものです。そこで,実際にパワハラ防止のための措置義務の整備に当たられる方は,上記の記事で指針の内容を大づかみしていただいた上で,必ずオリジナルの指針を参照されるようお願い致します。