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北大アカハラ問題・被害者の取り得る手段は?

令和2年7月1日付日経新聞朝刊に,「北大学長,不適切行為28件」の見出しで,パワハラ等28件の不適切行為を認定された北海道大学の学長が解任された旨の記事が掲載されました。この不適切行為のうち,パワハラに当たるものは,同記事によると「威圧的な言動や過度の叱責など職員への不適切行為18件」とのことです。また,同月2日付日経新聞朝刊には,続報として,同月1日,北海道大学が記者会見を開き,人事権発動を示唆するといった威圧的な言動等が確認され,通院や服薬が必要になる職員もいたこと,教職員ら計10数人が罵声を浴びせられたり無理な仕事を押しつけられたりしたことが発表された旨の記事が記載されました。

学長はパワハラ行為を否定しているとのことですが,仮に上記北海道大学の発表が事実だとすれば,パワハラに該当する可能性は極めて高く,大学という教育機関において行われたという点で,いわゆるアカデミック・ハラスメント(アカハラ)に該当するということができます。

そこで,本稿では,いわゆるアカハラについて,被害者側の取り得る対応も合わせて解説します。

アカハラとは?

アカハラというのは,他のハラスメント(「パワーハラスメント(パワハラ)」・「セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)等」)のように,法律等による明確な定義があるわけではありませんが,一般的には,大学等の教育機関において,教授等が権力を背景に他の教職員や学生に対し嫌がらせ等を行うことと理解されているようです。

この点,本件で問題となっている北海道大学にも「国立大学法人北海道大学ハラスメント防止規程」が設けられており,これによると,アカデミック・ハラスメントとは,「役員,職員又は学生等による,本学における職務上,修学上又は研究上の優越的地位を不当に利用して,他の役員,職員若しくは学生等又は関係者の職務上,修学上若しくは研究上の権利を侵害し,又は人格を辱める言動並びに関係者による,本学における研究上の優越的地位を不当に利用して,役員,職員又は学生等の職務上,修学上若しくは研究上の権利を侵害し,又は人格を辱める言動のうち,セクシュアル・ハラスメント以外のものをいう」と定義されています。

上記規程上は,アカハラとセクハラは別物とされていますが,一般には,セクハラやその他のハラスメントも含めて,大学等の教育機関において行われる場合にはアカハラと扱われることも多いように思われます。大学等の教育機関においては,職場内の上下関係に加え,研究者としての業界内での権威や,学生への権力・影響力といった特有の上下関係,権力関係が存在し,さらに研究室内等,人間関係も閉鎖的になりがちという点で,ハラスメントが生じやすい要因があるとされています。そのため,そのような場で生じたハラスメントが特にアカハラと呼称され,社会問題になっているものと思われます。

アカハラの被害者が取り得る対応

アカハラの被害は内容も程度も様々であり,当事者間の関係等の事情によっても,アカハラの問題を解決するのに,何をもって解決とするか,どのような手続で進めるかといった方針は事案に応じて適切に立てたいところです。手続としては,大きく分けて①学内の相談窓口といった内部の制度を利用する方法と,②裁判所を利用する法的な手続があろうかと思われます。

①学内の相談窓口の利用

アカハラについては,国公立だけでなく,私立大学も含め,多くの大学において,ハラスメントの防止を啓発したり,相談窓口や調査体制を整備したりする等の取り組みが行われています。

本件で問題となっている北海道大学においても,上記の規程がその一環として定められており,同規程によると,ハラスメント相談室が設けられており,相談を受け付け,相談に関する事実確認を行い,必要に応じ相談の当事者に対する調整を行ったり,ハラスメントに起因する問題の解決に関し,部局等の長に対し勧告,指導又は助言したりする等の業務を行うものとされています。また,ハラスメントに起因する問題についての事実関係を調査するための調査委員会の組織や弁護士への調査委任についても規定されています。

アカハラの被害が比較的軽微であり,研究上の都合等により,行為者との関係を修復することが望ましく,それが見込まれるような事案では,このような学内の相談窓口等を利用し,円満な解決を図ることができないかを検討してみるとよいでしょう。ただし,本件のように,大学のトップである学長が行為者として関与しているような事案では,学内の制度を利用した解決は難しいものと思われます。その他,被害が深刻な場合や当事者間の感情的な対立が激しい場合等も,円満な解決は困難であるのが通常であるため,②の法的な手続による解決を検討することになるでしょう。

②法的な手続

①学内の相談窓口等の利用による解決が適切でない場合や困難な場合には,裁判所を利用する法的な手続をとることになります。具体的には,アカハラの行為者個人及び大学等の教育機関に対する損害賠償請求をすることになりますが,そのためには,アカハラが民事上の不法行為責任の原因となる違法なものと評価される必要があります。具体的な手続については,別稿「ハラスメント紛争解決手続の流れ」の「訴訟」の項目にて解説していますので,こちらをご参照下さい。

国立大学のアカハラ~行為者個人に賠償請求できるか

ところで,アカハラが行われたのが私立大学である場合には,行為者個人に対しては不法行為責任を,大学に対しては使用者責任又は教育・研究環境配慮義務違反による債務不履行責任を根拠に損害賠償請求をすることになりますが,本件のように国立大学においてハラスメントが行われた場合に,行為者個人に対する請求ができるかどうかが問題となります。

この点,国家賠償法第1条第1項は,「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。」と規定しており,公務員個人は賠償責任を負わないものと解釈されています。同条項が国立大学法人の教職員による職務行為にも適用されるのであれば,アカハラを行った個人に対する請求はできないことになります。

裁判例では,国立大学の教職員についても同条項の適用を認めているものが多く,現状は肯定説が優勢といえそうです。肯定説を前提とすると,結論としては,同条項によって大学の損害賠償責任は認められるものの,行為者個人としては損害賠償責任を負わないということになります。

まとめ

本件では国立大学の学長が解任されましたが,これは平成16年度の国立大法人化以降初の事例とのことです。パワハラ・セクハラ等のハラスメントに対する世論が厳しいものになってきていることも,このような処分になったことの一因となっているかもしれません。

会社においても,パワハラやセクハラ等のハラスメントが発生しないよう,より一層気をつけたいところです。

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