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紛争予防

企業のパワハラ対策~能動的なハラスメント認知の勧め

パワハラ・セクハラ等のハラスメント問題は,発生から時間が経過するほど被害が深刻になり,被害者本人のみならず,会社が被るデメリットもより大きくなる傾向があります。逆に,早期に対処するほど被害は軽微となり,会社としても,裁判等の本格的な紛争に発展する前に,社内での解決を図ることができます。

しかしながら,会社としてパワハラやセクハラの問題を解決するための体制を整えていても,ハラスメントの事実を認知できなければ,具体的に対処することはできません。そこで,企業のパワハラ・セクハラ対策として,ハラスメントの事実を早期に認知することは極めて重要といえます。

この点,パワハラの早期認知のための対策として,相談窓口の設置・運用について別稿「社内にパワハラ相談窓口を設置し運用する際の留意点」で解説しましたが,これは,パワハラの相談や申告を待って認知するという点でパッシブ(受動的)な対策といえます。これに対し,パワハラやセクハラをより早期に認知するためには,会社から社員に対して能動的に働きかけるアクティブな対策も併用したいところです。

本稿では,このような“アクティブ認知”のメリットや具体的方法について解説します。

アクティブ認知のメリット

潜在的な事案を掘り起こせる

相談窓口のような“パッシブ認知”の方法は,社員からの相談等のアクションが必要となりますが,相談窓口の存在を周知されていたとしても,社員にとって,実際にアクションを起こすハードルは決して低くないでしょう。同じ職場内で波風を立てることを望まなかったり,加害者からの報復を恐れたりするような事情が心理的な障壁となるからです。パワハラやセクハラによる被害が小さいうちは,このような心理的障壁を越えてアクションを起こすほどの動機付けがはたらきません。そのため,実際に窓口に相談に来た段階で,ハラスメントが看過できない程度に至っていたということも少なくありません。

パワハラやセクハラがエスカレートする前にこそ,別稿「パワハラやセクハラを社内で解決するための対応とは?」のとおり,紛争を未然に防ぐために取り得る手段が多く,また,損害を抑えた解決の見込みも大きいため,企業としては,このような潜在的な段階でハラスメントを認知して対策したいところです。

この点,アクティブ認知の方法であれば,自ら窓口に行くなど,社員が行動の起点とならず,会社の働きかけに応じる格好となるため,上記のような心理的障壁が相当低くなります。その結果,パワハラやセクハラの被害が深刻になる前の段階の潜在的な事案を掘り起こせることが期待できます。

パワハラやセクハラの加害者に対する牽制になる

後記のアンケートのようなアクティブ認知の対策は,社員全体に一律に行うのが通常です。そうすると,被害者だけでなく,現にパワハラやセクハラを行っている加害者に対しても,企業としてハラスメント行為を認知しようと対策していることが伝わります。このことが,パワハラやセクハラの加害者に対する牽制となり,さらなるパワハラ等を防止することが期待できます。さらに,実際にハラスメント行為に及んでいない社員についても,自身の言動に改めて気をつける動機付けとなります。つまり,アクティブ認知の対策をとること自体,パワハラやセクハラの認知という本来の目的を超えて,ハラスメント被害を防止するる対策しての効果があります。

パワハラやセクハラの対策について社員の信頼を得られる

さらに,アクティブ認知の対策をとることで,企業としてパワハラやセクハラの対策を積極的に行うという姿勢を社員に示すことができます。これにより,会社に対する信頼を醸成でき,ハラスメント相談窓口のようなパッシブ認知のためのアクションをとるためのハードルを下げることが期待できます。また,会社への信頼感が高まることは職場の士気が上昇する要因となりますので,ハラスメント対策という目的以外にも,生産性の向上という副次的な効果があるといえます。

アクティブ認知の方法

アクティブ認知の対策のうち,最も導入しやすく,効果的なものとしてアンケートが挙げられます。そこで,以下,アンケートを実施する上での留意事項等を解説します。

アンケートの記載内容

形式面

回答のしやすさを優先しましょう。具体的には,「はい」「いいえ」で答えられる質問や,回答を選択肢から選ぶかたちの質問を原則として,自由記述式の質問はなるべく入れないようにするとよいでしょう。

内容面

パワハラ・セクハラ行為の有無について

パワハラ,セクハラといった抽象的な概念でなく,それに当たる具体的な行為の有無を問うかたちにすると実態を把握しやすくなると思われます。

例えば,パワハラであれば,「次のような言動を職場で見たり聞いたりしたことがありますか?あるものに○を付けて下さい」という質問に続けて,「①殴る,蹴る等の暴行,②「バカ」「辞めろ」等,相手の人格を否定する,退職を強要する等の言動,③他の労働者の面前での執拗な叱責・・・」のように,具体的言動を記載すると回答が得られやすくなるでしょう。この言動については,いわゆるパワハラの6類型や,厚生労働省のガイドラインを参考に工夫していただければと思います。パワハラの6類型については,別稿「パワーハラスメント(パワハラ)とは?定義と類型」にて解説しています。

パワハラ・セクハラ行為を現認した社員のリアクションについて

前記の質問で,パワハラ・セクハラ行為を見たり,受けたりした社員が,それに対してどのように対応したかを問うものです。これも,具体的なリアクションを選択肢にして○を付けて回答できる形式にするとよいでしょう。

この質問により,会社が相談窓口のようなパッシブ認知の対策をしている場合,それが使われているのかどうかが分かります。対策の仕組みがあるにもかかわらず,これを使わずに泣き寝入りしている旨の回答が多いようであれば,実効性を高めるよう改善の必要があるということになります。そこで,改善の方向性のヒントを得るために,窓口に相談をしない理由等を尋ねる質問も合わせて盛り込んでおくとよいでしょう。

実施の方法

パワハラやセクハラの有無や内容の実態を正確に把握するというアンケート目的を達成するためには,回答する社員のプライバシーが守られることが最も重要といえます。ハラスメントの事実を会社に伝えることで,加害者から報復を受けたり,職場の雰囲気が悪くなったりする懸念があるからです。そこで,アンケートの対象は全社員,無記名とし,名前の他にもプライバシーに関わる事項については回答を求めないのが原則です。また,アンケートの回答は,パワハラやセクハラの防止等,職場環境の向上という目的のみ利用する旨周知することも必要でしょう。

さらに,相談窓口等,パッシブ認知の対策が既に設けられている場合には,この機会に改めて利用を促すとよいでしょう。

まとめ

以上のとおり,パッシブ認知の対策に加え,アクティブ認知の対策も導入することにより,パワハラやセクハラを早期に認知するという目的がより達成されやすくなります。アンケートは実施しやすい上,内容を工夫することでハラスメントの有無や内容といった実態を相当程度正確に把握できるコストパフォーマンスに優れた方法といえます。

相談窓口等を設けているにもかかわらず,パワハラやセクハラの被害が深刻になってから発覚したような場合には,早急に導入されることをお勧めします。

 

 

 

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