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ハラスメント紛争対応の流れその2~労働審判

パワハラ・セクハラといったハラスメントの被害者が会社に対して損害賠償請求をする際,示談で解決できない場合には,裁判所を使った法的措置がとられることになります。法的措置の代表的なものとしては訴訟があり,これについては別稿「ハラスメント紛争対応の流れその3~訴訟」で解説しております。

これに対し,裁判(訴訟)とは別の法的措置として,労働審判という制度があります。裁判所からいきなり書類が届くという点では訴訟と同じであるため,会社としては,どちらの手続でも“訴えられた”という印象を受けるのではないかと思われます。しかしながら,訴訟と労働審判には,第1回期日までの準備や手続の進行,解決の形式等,相違点も多いため,会社としては,それぞれの手続に応じた適切な対応をとる必要があります。

そこで,本稿では,労働審判の概要や手続の流れ,相手方として申立てを受けた会社として注意すべき点等について解説します。

労働審判手続の概要

労働審判は,労働関係に関する事項について会社と個々の労働者との間に生じた紛争に関して,裁判所に設置されている労働審判委員会が審理し,調停による解決を試み,調停で解決できない場合には労働審判を行うことで,実情に即した解決を図る制度です。

労働審判委員会は,裁判官である労働審判官1名と,労働関係に関する専門知識のある労働審判員2名(労働者代表と使用者代表の1名ずつ)で組織されています。

労働審判制度は,労働問題を迅速・適正に解決することを目的としており,期日が開かれるのは原則として3回以内とされています。調停による解決ができず,審判が行われた場合には,当事者はこれに対して異議申立てをすることができます。異議申立てが行われると,手続が訴訟に移行することになります。

労働審判は,解雇や残業代請求に関する紛争で利用されることが多いようですが,パワハラやセクハラといったハラスメントに関する紛争についても,会社と個々の労働者との間の紛争であるため,労働審判の対象となります。

会社側からみた労働審判の手続の流れ

パワハラやセクハラといったハラスメント事案では,被害者である労働者が会社を相手方として労働審判の申立てを行うのが通常です。このような場合の手続の流れやおおよそのスケジュールは次のとおりです。

①申立書類・期日呼出状が送達される

労働審判は,申立てから40日以内に第1回期日が指定されるものとされています。第1回期日の日程は,申立人と裁判所で調整の上決定されます。その際,相手方,つまり会社の都合は考慮されません。会社からすると,いきなり裁判所から,申立書類とともに期日の呼出状が届くことになります。

会社の代表者等が指定された期日に出頭できない場合にどうするかについては,各地方裁判所の運用により異なりますが,東京地方裁判所では,会社に呼出状が届いた後直ちに裁判所に連絡して期日の変更を求めない限り,指定された期日は変更されない運用となっています。

②答弁書提出(①から約1か月後)

会社側の準備として,第1回期日の1週間から10日前に指定された期限までに,答弁書という書面を提出する必要があります。答弁書には,申立書に記載された事実の認否やこれに対する反論等を記載します。また,会社側の主張の根拠となる証拠がある場合には,その写しも提出します。

③第1回期日(②から1週間から10日後)

労働審判は,訴訟が行われる法廷ではなく,労働審判廷という個室で行われます。手続は非公開で,傍聴はされません。室内に設けられた円卓に労働審判委員会と双方当事者が着席し,手続が進められます。

第1回期日では,申立書,答弁書等を元に争点の整理や証拠調べが行われます。証拠調べには人証(当事者等の供述)調べも含まれますが,訴訟の証人尋問とは異なり,尋問の方式は労働審判委員会の裁量に委ねられていますので,事案に応じて効率的な方法が採用されることになります。

また,これらにより労働審判委員会が一定の心証を形成した上で,調停の試みがされることもあります。これにより調停が成立した場合には,第1回期日で労働審判手続は終了となります。これに対し,別の証拠を検討する必要があったり,調停の内容について持ち帰って検討する必要がある等の場合には,第2回期日の日程調整がされます。次回期日までの準備の内容や関係者の都合によりますが,1週間から約1か月後に指定されるのが通常です。

④第2回期日(③から1週間から約1か月後)

第1回で持ち越された事柄が処理されることになります。第1回期日で審理が終了しなかった場合には,この回から調停の試みが行われます。この回で調停が成立しない場合又は労働審判の言渡しがされない場合には,第3回期日が指定されますが,第2回期日終了後は事実の主張や証拠の提出が原則としてできませんので,第3回期日までには,どのような内容であれば調停による解決ができるのかを検討することになります。第2回期日において,労働審判委員会から調停案が示されることもありますので,その場合には,調停案に応じるかどうかを検討します。

⑤第3回期日(④から1週間から約1か月後)

第2回期日後に双方検討した調停案ないし調停の方向性をもとに調停による解決が図られます。調停で解決できない場合には,審理の終結が宣言され,その場で労働審判が言い渡されるか,後日審判書が送達されることが告知され,手続は終了となります。

⑥第4回期日(審判の告知又は審判書送達から2週間)

調停で解決せず,審判により手続が終了した場合,その内容に不服がある当事者は異議申立てをすることができます。異議申立てのできる期間は,⑤で労働審判の言渡しを口頭で受けた日又は後日審判書を送達された日から2週間です。この期間内にいずれからも異議申立てがされないと,労働審判には裁判上の和解と同一の効力が生じます。そうすると,例えば,賠償金の支払いが審判で認められた場合には,この審判書に基づき強制執行(預金の差押え等)ができることになります。

上記期間内に,労働審判が行われていた地方裁判所に異議申立てをすることで,労働審判の効力を失わせることができるとともに,労働審判の申立時点で裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。つまり,手続が訴訟に移行することになります。

まとめ

以上がパワハラ・セクハラ等の紛争対応のうち,労働審判が申し立てられた場合の手続の流れですが,スケジュールについては事案により前後することになります。

申立てを受けた会社としては,答弁書の提出までの期間がタイトである上,労働審判は専門性の高い手続であるため,社員に弁護士がついていない場合であっても,弁護士に手続の代理を依頼されることをお勧めします。

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