別稿「マタハラ防止に関する厚生労働省の指針~マタハラの内容」にて,男女雇用機会均等法(以下「均等法」といいます。)11条の3により会社に義務づけられている,マタハラ防止のための雇用管理上の措置に関し,防止すべきマタハラの内容について解説しましたが,本稿では,このようなマタハラを防止するために会社がとるべきとされている措置について解説します。
事業主の雇用管理上の措置義務の概要
指針は,措置義務として13の事項を挙げており,これらは,①方針の明確化,②相談体制の整備,③事後の対応,④マタハラの原因や背景となる要因の解消,⑤①~④と併せて講ずべき措置の5つに分類されています。また,各事項について,措置が講じられているとされる場合の具体例も挙げられています。
指針によって示された措置義務の内容と具体例の概要は次のとおりです。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
ⅰ)マタハラの内容及び妊娠,出産等に関する否定的な言動がマタハラの発生の原因や背景となり得ること,マタハラがあってはならない旨の方針並びに制度等の利用ができる旨を明確化し,管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
〈具体例〉
- 就業規則等にマタハラを行ってはならない旨の方針及び制度等が利用できる旨について規定し,当該規定と併せて,マタハラの内容及び発生の原因や背景を労働者に周知・啓発する
- マタハラを行ってはならない旨の方針,マタハラの内容及び発生の原因や背景等,制度等の利用ができる旨を,社内報等の広報・啓発のための資料等に記載して配布等したり,研修,講習等を実施したりする
ⅱ)マタハラを行った者については,厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等に規定し,管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること
〈具体例〉
- 就業規則等において,マタハラを行った者に対する懲戒規定を定め,その内容を周知・啓発する
- マタハラを行った者は,現行の就業規則等に定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し,これを労働者に周知・啓発する
②相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備
ⅰ)相談への対応のための窓口を予め定めること
〈具体例〉
- 相談に対応する担当者を予め定める
- 相談に対応するための制度を設ける
- 外部の機関に相談への対応を委託する
ⅱ)相談窓口の担当者が,相談に対し,マタハラに該当するかどうかが微妙な場合も含めて,適切に対応するようにすること
〈具体例〉
- 相談を受けた場合,その内容や状況に応じて,相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとする
- 相談を受けた場合,予め作成した留意点等を記載したマニュアルに基づき対応する
ⅲ)セクハラ等のハラスメントと一元的に相談に応じることのできる体制を整備すること
〈具体例〉
- 相談窓口で受け付けることのできる相談として,マタハラのみならず,セクハラ等も明示する
- マタハラの相談窓口がセクハラ等の相談窓口を兼ねるようにする
③マタハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
ⅰ)事実関係を迅速かつ正確に確認すること
〈具体例〉
- 相談窓口の担当者,人事部門又は専門の委員会等が,相談者及び行為者の双方から事実関係を確認する
- 相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり,事実の確認が十分にできないと認められる場合には,第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずる
- 事実関係の確認が困難な場合等は,専門の調停の申請を行うか,中立な第三者機関に紛争処理を委ねる
ⅱ)ⅰ)によりマタハラが生じた事実が確認できた場合は,速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
〈具体例〉
- 事案の内容や状況に応じ,被害者の職場環境の改善又は迅速な制度等の利用に向けての環境整備,被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助,行為者の謝罪,被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずる
- 専門の調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずる
ⅲ)マタハラの行為者に対する措置を適正に行うこと
〈具体例〉
- 就業規則等におけるマタハラに関する規定等に基づき,行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講し,併せて,事案の内容や状況に応じ,被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助,行為者の謝罪等の措置を講ずる
- 専門の調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずる
ⅳ)改めてマタハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること
〈具体例〉
- 改めて,マタハラを行ってはならない旨の方針,マタハラの内容,発生の原因や背景を,社内報等の広報・啓発のための資料等に記載して配布等したり,研修,講習等を実施したりする
④マタハラの原因や背景となる要因を解消するための措置
会社は,次のⅰ)の措置を講じなければならず,ⅱ)の措置を講ずることが望ましいとされています。
ⅰ)業務体制の整備など,必要な措置を講じる
〈具体例〉
- 妊娠等した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう,適切に業務分担の見直しを行う
- 業務の点検を行い,業務の効率化等を行う
ⅱ)妊娠等した労働者が,制度等の利用ができるという知識をもったり,周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識をもつこと等を周知・啓発すること
- 社内報等の広報・啓発のための資料等を配布等したり,人事部門等から周知・啓発したりする
⑤ ①から④までの措置と併せて講ずべき措置
ⅰ)相談者への対応又は事後の対応に当たっては,相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに,その旨を労働者に対して周知すること
〈具体例〉
- プライバシーの保護のために必要な事項を予めマニュアルに定め,相談窓口の担当者が相談を受けた際には,当該マニュアルに基づき対応するものとする
- プライバシーの保護のために,相談窓口の担当者に必要な研修を行う
- 相談窓口においては相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを,社内報等の広報・啓発のための資料等に掲載し,配布等する
ⅱ)マタハラに関し相談したこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め,労働者に周知・啓発すること
〈具体例〉
-
- 就業規則等において,マタハラの相談等を理由として,労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し,労働者に周知・啓発をする
- 社内報等の広報・啓発のための資料等に,マタハラに関する相談をしたこと等を理由として解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し,配布等する
まとめ
以上のとおり,厚生労働省の指針により,会社が防止のためにとるべき措置の詳細が示されています。特に,上記のとおり具体例も合わせて示されていますので,会社の規模,業種・業態に合わせて,マタハラの防止に取り組んでいただければと思います。
なお,別稿「マタハラ防止に関する厚生労働省の指針~マタハラの内容」と同様,指針の文言で冗長とも思われる部分を思い切って削って読みやすくしておりますので,会社において実際にマタハラ防止のための措置を講じるにあたっては,オリジナルの指針を参照されることをお勧め致します。