紛争解決のための手続の種類
パワハラやセクハラの被害者から損害賠償を受けるというかたちで紛争となった場合,その手続は,裁判所を使うかどうかで大きく2つに分類されます。
裁判所を使わない【示談】の手続では,多くの場合,弁護士を代理人として,パワハラやセクハラにより受けた損害の賠償を求める旨の内容証明郵便が会社に届きます。これに対し,裁判所を使う手続の代表である【訴訟】では,裁判所から訴状等の書類が会社に送達されます。
また,【示談】の手続を進めていても,条件が折り合わず決裂した場合に,【訴訟】に移行するという経過をたどるケースも少なくありません。
本稿では,これらのうち【示談】の手順の流れと,おおよそのスケジュールを解説します。
示談による解決の流れとスケジュール
①内容証明郵便が届く
セクハラやパワハラの被害者である社員本人が,自ら会社に損害賠償を求めて交渉をするというケースは極めて少ないと思われます。通常は,弁護士が代理人となり,損害賠償請求する旨の内容証明郵便が届くことになります。
このような内容証明郵便には,「本書到達後●日以内に,●●円をお支払い下さい。上記期間内にお支払いなき場合は,法的措置を講じる所存であることを申し添えます」等のように,一定の期限を設けて,支払わなかった場合には裁判を起こすような記載があることが通常です。期限としては,10日から2週間としていることが多いように思われます。
要するに,賠償金を払わないと訴えるぞ,という内容ですが,くれぐれも冷静に対応するようにしましょう。大抵のケースでは,記載された期限に支払いをしなくても,いきなり訴えられることはないといってよいでしょう。そのような短い期間で訴えるつもりであれば,最初から訴訟等の手続を選択していたはずであり,わざわざ内容証明郵便を送ることはないからです(時効が近い場合は例外です)。
だからといって,内容証明郵便を無視して放置するのは,本当に訴えられてしまうことになりかねず,得策ではありません。そこで,慌てずにじっくりと請求の内容の妥当性を検討して,回答するようにしましょう。
②回答の書面を返送する(①から10日~2週間)
内容証明郵便に記載されている期限内に,相手方(弁護士)に返事が届くように回答しましょう。この期限内に,請求額を鵜呑みにして支払う必要はありませんが,全く回答がないと,示談はできないと判断されて,訴訟等の手続に踏み切られてしまう可能性があるからです。
回答の内容は,パワハラやセクハラの程度や証拠の有無,請求額等によりケースバイケースです。別稿「パワハラ等を和解で解決する際のポイント」を参考に,事案に適した回答書面を送りましょう。
③示談交渉開始(②から5日~2週間)
回答書面が相手方(弁護士)に届くと,さらに書面のやりとりがされたり,直接会ったりして示談交渉が続きます。パワハラやセクハラ等の事実関係に争いがある場合には,書面で双方の言い分を主張し合い,裁判になった場合にどちらの主張が通りそうかを検討しながら,解決の水準を探っていくのが通常です。
あまりに事実関係の主張や請求内容(示談金の金額)に隔たりがある場合には,示談による解決の可能性なしとして交渉が打ち切られることもありますが,そうでない場合には,金額や支払時期,示談書の文言等,詳細な条件が折り合うか,やりとりが続けられます。
④示談または交渉決裂(③から2週間~2か月)
交渉を継続し,条件で折り合いがつけば示談となり,そうでなければ決裂となります。
パワハラやセクハラの内容・程度や,当事者,弁護士の考え方等,個別の事情にもよりますが,最初の回答書面を出してから,3か月前後で,示談が成立するか,交渉が打ち切られるかの結論に達する場合が多いです。
交渉が打ち切られた場合には,請求できる金額が僅少であるとか,ハラスメントの事実が言いがかりといってよいほど根拠に乏しいようなケースでない限り,訴訟等の手続がとられることになりますので,会社としても準備をしておくとよいでしょう。
まとめ
以上がパワハラ・セクハラ等の紛争対応のうち,示談による解決までの流れですが,スケジュールについてはあくまでおおよその期間で,ケースによっては上記の幅から前後する場合もあり得ることはご了解いただければと思います。
示談交渉で会社・被害者社員双方にとって最も重要なのは示談金の金額ですが,示談金の相場は,パワハラやセクハラの行為の程度や証拠の堅さ等,事案毎に様々な事情を考慮して決められるため,極めて専門性の高い問題といえます(この点の詳細は別稿「パワハラ紛争の和解金の相場と考え方のポイント」をご参照下さい。)。そこで,社員側が弁護士を立ててきた場合には,会社としても弁護士に交渉の代理を依頼されることをお勧めします。