パワハラはどのような会社でも発生する可能性がありますが,厚労省の調査により,起こりやすい職場環境には一定の特徴があることが判明しています。
本稿では,パワハラの起こりやすい職場環境の特徴と,その原因を踏まえた改善方法について解説します。自社の職場環境が,調査の結果判明した特徴に当てはまるかどうかチェックしていただき,当てはまる場合には,パワハラが発生していないかどうか,特に注意深く観察するとともに,職場環境の改善をすることができないか,検討されることをお勧めします。
パワハラが起こりやすい職場の特徴
平成24年度厚労省委託事業「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」によると,パワハラに関する相談がある職場に共通する特徴としては,「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」が51.1%と最も高く,以下,「正社員や正社員以外など様々な立場の従業員が一緒に働いている職場」(21.9%),「残業が多い/休みが取り難い」(19.9%),「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」(19.8%)と続いています。
以下,これらについて詳しく検討します。
上司と部下のコミュニケーションが少ない職場
いわゆるパワハラの6類型(別稿「パワーハラスメント(パワハラ)とは?定義と類型」にて詳しく解説しています。)のうち,最も現場で起こりやすいものは「脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)」の類型に属するものと思われます。これは,業務上必要な指示・注意との線引きが難しく,上司からすればそのつもりがなくても,行き過ぎによりパワハラとなってしまうことがあるからです(業務上必要な指示等との線引きについては,別稿「パワハラと指導の違いは?線引きと注意の仕方」にて詳しく解説しています。)。
この点,上司と部下とのコミュニケーションが十分な職場では,日々の業務で多少の行き違い等があったとしても,上司と部下との間で解決し,パワハラというレベルまで深刻化しないものと思われます。これに対し,コミュニケーションが少ない職場では,上司からすれば,どのような言動がパワハラと受け取られるかを測ることが難しく,部下からしても,上司の真意が伝わりにくいことから,業務上必要な指示等をパワハラと受け取ってしまうハードルが低くなるため,パワハラの発生頻度が一際高くなってしまうものと推察されます。
また,このような職場では,パワハラに該当する出来事を上司と部下との間で解決することができないことから,相談窓口等に伝わることになり,パワハラの認知件数としてカウントされやすくなるということも,発生頻度が高くなる要因として考えられます。
正社員や正社員以外など様々な立場の従業員が一緒に働いている職場
正社員と派遣社員やパート・アルバイトといった立場の違う従業員が一緒に働いている職場では,待遇や仕事の内容等で格差が生じ,正規雇用とそれ以外の従業員間に溝ができ,コミュニケーションが不十分になる傾向があります。また,立場上,正規雇用の従業員の方が強くなることが多く,非正規雇用の従業員に対するパワハラが起こりやすくなる要因となっています。他方で,古参のパート従業員が,新人の正社員に対していじめ・嫌がらせ等を行う事例も散見されます。ハラスメント防止の観点からも,雇用形態の異なる従業員が一緒に働く職場では,人間関係が悪くならないよう,一層留意が必要といえます。
残業が多い/休みが取り難い
業務量が多く多忙な職場でパワハラが起こりやすいことついては,実感として納得しやすいのではないでしょうか。余裕がなくなると周りの人に対する配慮が行き届くなり,言動がきつくなってしまうという傾向は,大なり小なり誰にでも当てはまるからです。
業種としては,医療関係や介護・福祉関係,飲食関係で業務過多によるパワハラが起こりやすいといわれていますが,他業種であっても,平時と繁忙期のギャップが大きな職場では,繁忙期には特に,パワハラが発生しないようケアが必要です。
失敗が許されない/失敗への許容度が低い
余裕がなくなることにより,周りの人に対する配慮が不足し,パワハラが起こりやすくなるという点は,失敗が許されない等,仕事上のプレッシャーが大きな業種にも当てはまります。成果第一主義の職場も,この方針が悪いわけではありませんが,従業員がノルマ達成のプレッシャーを受けること等を考えれば,パワハラが発生しないような手当も念入りにしておきたいところです。
パワハラの起こりやすい職場環境を改善するには
上記のとおり,パワハラの起こりやすい職場の特徴をみると,「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」と,「正社員や正社員以外など様々な立場の従業員が一緒に働いている職場」については,人間関係に問題があり,コミュニケーションが不十分になっているということが原因と考えられます。他方,「残業が多い/休みが取り難い」と「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」については,仕事の質や量が許容範囲を超え,労働者が周りの人に配慮する余裕をなくすことが原因と考えられます。
そこで,これらの原因を除去するような手当が,パワハラの防止につながるといえます。具体的には,「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」と,「正社員や正社員以外など様々な立場の従業員が一緒に働いている職場」については,アンケートやヒアリング等を通して実態を把握し,既に人間関係に問題が生じていた場合には,個別に対処することが考えられますが,職場内の風通しを良くし,コミュニケーションの改善を図っていく施策も合わせてとりたいところです。他方,「残業が多い/休みが取り難い」職場と,「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」職場については,現場レベルでは難しいこともあろうかと思いますが,なるべく労働者に余裕ができるように業務の分担等を改善し,仕事の質と量を許容範囲に抑えるよう管理できないか検討されることをお勧めします。
これらのパワハラの起こりやすい職場環境に対する手当ては,パワハラの防止という本来の目的に留まらず,従業員がより働きやすい職場環境を作ることにもつながり,ひいては生産性の向上にも貢献するものといえます。そのため,人的・物的資源による制約等はあろうかと思われますが,職場環境の見直しを積極的に検討されることをお勧めします。
まとめ
パワハラはどのような会社でも起こる可能性があり,また,加害者側,被害者側の両当事者の人的な要因も大きく影響するところであるため,職場環境だけに原因を求めることはできません。しかしながら,調査の結果,パワハラの発生と職場環境の特徴に一定の関連があることも判明していますので,これらの特徴が認められる場合には,可能な限り早期に改善を図るようにしたいところです。